八ヶ岳南麓標高850ｍのなだらかな田舎道に白く塗られた土壁の酒蔵が見えてくる。村名どおりこの村には多くの湧水があり、この酒もおそらく八ヶ岳の伏流水（軟水）で仕込まれたものに違いない。環境保護をめざす有機農法米によって作られた「粒々辛苦」はけっして薫り高い酒ではなく、もとの水の澄んだ香りがする。日本酒度は高いけれど、酸度もアミノ酸度も高いから辛口の酒というよりはかなり濃醇な飲みごたえのある酒である。軽やかな吟醸酒をポップな雰囲気の中で飲むというイメージは皆無で、山梨産の馬刺しか何かをつまみながら時間をかけてゆっくり飲んでいると鄙びた幸福感が五臓六腑から湧水の如く湧き出してくるという感じだ。
　2003年3月2日、南八ヶ岳連峰が久しぶりの快晴に輝いているこの蔵の前を偶然に通ると蔵開きをしていた。蔵の入口で案内をしていた谷桜のはっぴを着た蔵人さんと少し話したが予約がないと入れないとのこと。そのうち蔵見学を予約しようと思う。

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